『ちいさいタネ』

『ちいさいタネ 』
エリック=カール 作
ゆあさふみえ 訳
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ある秋の日。
花の種達は風にあおられ、空中に飛び散りました。
これから種達は、遠い遠いところまで旅をします。
そんな種の中に、ひときわ小さな種がいました。
この種も、みんなと一緒に旅に出ます。
途中、力尽きて落ちてしまう種もあります。
落ちた場所がとても寒いところだったり、暑いところだったりすると、その種はもう芽を出すことができません。
また、途中で生き物達の餌になってしまう種もありました。
小さな種は、あまりに小さく、生き物達に見つからずにすみました。
やっとのことで地面に降り、冬を越え、ようやく芽が出せても、花が咲くまでまだまだかかります。
小さな芽の時に子どもの足に踏まれてしまった仲間もいました。
大きな花を咲かせたと思ったら、人の手によってぽきりと折られた花もありました。
そんな中で、小さな種は小さな葉を出し、やがてとてもとても大きな花を咲かせることができました。
多くの仲間達は花を咲かせることができませんでした。
それでも小さな小さな種は、大きな大きな花を咲かせ、やがて季節が巡り秋が来た時には、その花に沢山の種を宿していました。
そしてその種達は、また風に乗って旅を始めるのです。
この絵本は、科学絵本でもあります。
種から花へ、そしてまた種へ。
順調に大きくなる種もあれば、途中で力尽きてしまう種もある。
ここに描かれる種は、自然のサイクルの中でそれぞれの役割を果たしています。
でも、絵本は読み手によって変わります。
読む時期によって変わります。
どんなことを思い抱いてもいいのです。
わたしは今日という日に、この絵本を選びました。
沢山の命が自然によって奪われた5年前。
決して東北の人達だけではありません。
わたし達もまた、あの日から5年間、生きて、生かされてきました。
小さな種は、仲間達の分も大きく大きくなり、立派な花を咲かせました。
そうしてまた、沢山の種を放ちました。
わたし達は、何ができるのでしょう。
沢山の犠牲の上に立ち、何が残せるのでしょう。
まだ復興は終わっていません。
新たな問題は山積みです。
まだまだ戦っている人たちがいます。
忘れないこと。
今に感謝すること。
大切なことです。でも、5年経ち、もうそれだけではダメな気もします。
わたし達は知らなさすぎました。
今でもまだ、知らなさすぎます。
知らなければいけない。
その姿勢を子ども達に見せなければいけない。
これから先の未来を生きていくのは、子ども達です。
何も知らずに大人になってはいけない。
これから先の未来に必要なのは、「知る力」「考える力」「選び取る力」だと思います。
ですが、今日だけは。
今日だけは、ただ無心に祈りたいと、そう思います。
3.11
ただ、手を合わせて。
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【232】『ちいさいタネ』
エリック=カール 作
ゆあさふみえ 訳
偕成社 1990/12
日々の暮らしの中、時が経てば思い出さなくなる日が増えていきます。
忘れない様に。そう思ってきましたが、忘れないのではなく、今を知らなければいけないと、5年目にしてようやく思う様になりました。
今日だけは無心に祈りを捧げて。
明日からはしっかりと、現実と向き合いたいと思います。
160311
ayumi