『ちいさなねこ』
石井桃子 作
横内襄 絵
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小説には、様々な描写があります。
心理描写を細かく描く作家さんもいれば、あたかも自分がその場にいるかの様な錯覚を覚える程の素晴らしい風景描写に出会えることもあります。
大人が読む本には、やはり様々な技巧が必要なのだと思います。
文章に慣れ、目の肥えた大人が読むに値する知識、技術、構成力...様々な要素が本を書くには必要になると思います。
でも子どもの本、とりわけ絵本に関しては、巧みな心理描写はそこまで必要ないという気がします。
勿論、だからと言って何も考えずに適当に書くのかと言えばそれは違います。
むしろ子どもの手にするものだからこそ、しっかりとしたものが必要になってきます。
反対に言えば、子どもの手にする本は誤魔化しがきかないのだと思います。
まだ人生経験も浅く、感情を表す言葉に関しても沢山知っているわけではない子ども。
そんな子ども達が読む本は、できるだけシンプルで、手の込んだ心理描写はなく、尚且つ絵と文章は本物でなければいけない。
そしてシンプルでありながら、起承転結の構成はしっかりと整っていなければいけない。
......こう書いていると、子どもの手にする本を作るのはとてつもなく難しい作業なのだと痛感します。
だからこそ、これは!という絵本や本が長く愛されるロングセラーの市場になるのでしょうね。
そんな今日紹介させてもらう絵本は、これらの「シンプル」で、「手の込んだ心理描写」もなく、「絵と文章は本物」であり、尚且つ「起承転結の構成」は見事に整っている傑作です。
正に子どもの為の絵本。
そんな絵本を、今日は紹介させて下さい。
今日の絵本は『ちいさなねこ』です。
主人公はちいさなねこ。
大きな部屋にいたねこは、おかあさんねこの見ていない隙に1人で出かけてしまいます。
ちいさなねこは様々な冒険を繰り返し、ピンチに立たされることになりますが、鳴き声を聞きつけたおかあさんねこが助けに行き、無事帰宅することができます。
ストーリー構成も綻びなくとてもしっかりしていて、起承転結、お話の盛り上がりや最後の安心感も抜群です。
主人公はちいさなねこですが、ちいさなねこの一人称では描かれていません。
この物語を読んでいる読み手と同じ、三人称でお話は進みます。
だからこそ客観的な立場で、正確でシンプルな文章展開ができ、読み手を引き込むことができるのだと思います。
ちいさなねこは冒険心の強い子どもそのもの。
自分がねこになって感情移入して読むこともできるし、客観的に見ながらねこの安否を心配しつつ、物語を楽しむこともできます。
そして最後は、最初にいた部屋でおかあさんねこのおっぱいをのんでいるちいさなねこの姿。
お母さんがいつも側にいる。守ってくれる安心感。
子どもが手にする絵本に欠かせないものだと思います。
ちいさなねこの冒険を一緒に味わった読者は、最後のこのシーンにほっと安堵することでしょう。
しっかりとした場面展開の後にあるこの安心感。
正に子どもが読むにふさわしい、傑作だと思います。
裏表紙には3歳からとあります。
文章量で言えば2歳半くらいから十分聞けると思いますが、この場面展開をしっかりと理解するには3歳頃からがベストかもしれません。
ねこの日にちなんだ絵本を色々と紹介していますが、わたしの中では1.2を争う、大好きなねこの絵本です。
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【211】『ちいさなねこ』
石井桃子 作
横内襄 絵
福音館書店 1967/01
最近巷では、お母さんがいなくなる絵本がブームになっています。
いなくなって初めてその大切さに気付くのは、大人です。子どもにそこまで強いるのは酷だと思います。
大人が大人目線で読むには良い絵本かもしれません。
改めて子どもの大切さを感じることができると思います。
でもそういった心理は、大人だからこそです。様々な経験を積み、感情の処理方法も覚えている大人だからこそ、そうした「感動」に行き着くことができます。
でもまだ経験も浅い、大人の庇護下にいる子どもはどう思うでしょう。
お母さんがいなくなるという恐怖、それをあろうことかお母さんから聞かされたというショックを覚える子どもが少ないとは到底思えません。
昔話の残酷さや、怖い話のスリルとは全く違う恐怖です。
「この絵本嫌い」と言って、本棚の奥にしまった子どもがいるそうです。もっともだと思います。
わたしは決してこの様な絵本が悪い絵本だとは言いませんし、思いません。
先に述べた様に、大人が読むと、心に響くものがあるのだと思います。
でもわたしは、これを母親に対して絶対的な信頼感、安心感を抱いている幼児に対して読み聞かせることには、正直反対です。
小さな子どもの心に母親がいなくなるという恐怖をわざわざ与える必要はない。母親の安心感を与える絵本というのは、この様な絵本でなくても今日紹介させてもらった絵本の様に沢山あります。
読むのなら、こっそり大人が読んで欲しいと思います。
「死」というものを知り、ある程度感情の処理方法を覚えた子どもが興味を示すのであれば、読み聞かせてあげてもいいのかもしれません。
でもそれが何歳なのか、いつならベストなのかは、わたしにはまだわかりません。
少なくともわたしは、息子に読み聞かせる気はありません。
読み聞かせるのが一概に悪いとも判断できません。
一個人の意見としては、幼い子どもに読み聞かせるのに向いている絵本ではないと、そう感じてしまいます。
ブームに踊らされることなく、大人がしっかりとした目で子どもに与える物語を選んで欲しい。まだまだ未熟な身なれど、そう思いますし、わたしも様々な絵本に触れてその目を養っていきたいと改めて感じます。
160220
ayumi◡̈⃝