『雨、あめ』

ピーター・スピアー
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今日は久しぶりにしっかりと雨が降りました。
昨日から続く雨。
数日お天気は下り坂の様で、日中は薄暗く何だかどんよりした気持ちになりますが、みんなが寝静まった深夜、窓を小さく開けると雨の音と冷たい空気が思ったよりも心地よく、「雨っていいなぁ」と素直に思えました。
雨の絵本には、雨の日を楽しくしてくれるものが沢山あります。
子どもの視点に立つと大抵のことは楽しめる気がしますが、雨もまたそのひとつ。
この絵本にも、そんな雨を楽しむ子どもの姿が魅力的に描かれています。
お庭で遊んでいる姉弟。
雨が降り出し、家へ駆け込みます。
てっきり雨宿りするのかと思ったら、長靴とレインコートを着て、傘を持って、雨の日の冒険へ繰り出すのです。
屋根の上から落ちてくる滝の様な雨水の下に傘をさして行ってみたり、水たまりに飛び込んでみたり。
雨粒をまとった蜘蛛の巣や、雨の中でも平然と川を泳ぐあひる達。
雨の中だからこそある小さく楽しい発見が、この絵本の中に沢山詰まっています。
だんだん雨脚が強まり、暴風雨の中急いで家へ帰る2人。
傘は勿論ひっくり返って、長靴の中には大量の水。
そんな光景も何だか懐かしいです。
あたたかいお風呂に入って、家の中で積み木で遊び、やがて夜になり寝る時間に。
窓の外はまだまだ雨。
少しだけ不安そうな2人ですが、眠りにつき、夜が明ける頃にはまた、太陽が顔を出してくれています。
この絵本、文字は全くありません。
ピーター・スピアーの躍動感溢れる細かい絵が、雨の1日を見事に描き切ってくれています。
ピーター・スピアーの絵本にはこういった絵だけで伝わるものが多数ありますが、この絵本はその中でも特に優れた作品だと思います。
雨の音、水の動き、姉弟の笑い声、あたたかい家の空気や、家の中から感じる雨の空気。
静まり返った夜、だんだんと雨脚が弱くなり、澄んだ空間がやがて朝を迎え入れるその瞬間。
文章は何ひとつないのに、絵本を開くだけでそれらが本当に聞こえてくる様です。
この絵本は、文字がないからこそこれだけ完成度の高い作品になっている様な気がします。
絵を見るだけで聞こえてくる、雨の日の音たち。
それぞれの耳を傾けるからこそ、絵本の中へ自然と入り込めます。
この絵本に文章がついてしまうと、それは「絵本の中の世界」だけにとどまってしまう。
それでも十分魅力的な作品になっていると思いますが、それではもったいないと感じる程、ピーター・スピアーの絵は無限の可能性を秘めていると感じます。
良質な絵本は、絵を見るだけでそのストーリーがはっきりと伝わるものだといいます。
正にこの絵本は、そんな絵本です。
子どもと様々なシーンを切り取りおしゃべりしながら読んでもいいですし、静かな雨の日の夜、1人で雨音に耳を傾けながら開くのもまたいい。
大人から子どもまで、いつまでも楽しめる1冊です。
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【293】『雨、あめ』
ピーター・スピアー
評論社 1984/06
160510
ayumi◡̈⃝