『つきよのばんのさよなら』
『つきよのばんのさよなら』
中川正文 作
太田大八 絵
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もうすぐ中秋の名月ということで、お月様の絵本を何冊か紹介しています。
今日はお月様が主役ではないですが、お月様の持つ少し切ない影が物語の背景にぴったりな、こんな1冊を紹介させて下さい。
今日の絵本は、『つきよのばんのさよなら』です。
ある晩、とうちゃんは仕事に出かけ、たろうはいつもの様に留守番をしていました。
そこへ、おもてを叩く音が。
開けると、何とくまの親子がいたのです。
くまの親子は何も言わずに、ただ頭を下げて帰って行きました。
不思議に思ったたろうですが、やがてある出来事を思い出したのです。
それはある夏の日。
たろうは、庭に干していた梅干しを無心に食べているくまを見つけました。
でもたろうは何も言わずに、くまにたらふく梅干しを食べさせてやりました。
後から大人が追いかけて来ましたが、たろうはくまが去った方向と逆の方向を教えました。
きっとやって来たくまは、あの時のくまだったのだろう。
あの時はお腹に子どもがいて、その子どもを見せに来てくれたんだろうな。
たろうはそう思いましたが、翌朝とうちゃんが帰って来て、湖で不思議な光景を見たと話してくれました...。
昔話にはよく、恩返しのお話があります。
この絵本は昔話とはまた違いますが、時代設定も昔の日本で、序盤は昔話の雰囲気を踏襲しています。
ですが、お話は恩返しでは終わりません。
くまの親子がたろうのところへ来た本当の理由。
おとうちゃんが湖で見た真実。
酸っぱい梅干しを、くまは何故たらふく食べていたのか。
ぐっと、胸が締め付けられます。
お話の中でも、大人達がくまを追いかけてやって来ます。
直接的な表現はありませんが、捕まえて殺してしまおうと思っている事は安易に想像できます。
確かに、くまは猛獣です。
人間なんて、くまと素手で戦えばひとたまりもないでしょう。
でも、くまも自然の中で生きています。
子を産み育て、食糧を探し、住む所を探し、一生懸命生きている。
自然の中で生きているのは、人間だけではないのです。
ですが、たろうもまた、具体的に描かれてはいませんが楽に生きているわけではありません。
毎晩仕事に出かけるとうちゃん。
たろうはいつも1人で留守番をしています。
父子家庭で、母親はいない様です。
この設定が、お話の中で人間とくまを「対等に」描けている要因のひとつなのかな、と思いました。
つきよのばんにさよならを伝えに来たくまの親子。
母親は居なくとも、男手一つで子育てをしている父親と心優しく育っているたろう。
彼等がそれぞれの地で幸せに生きている事を願わずにはいられません。
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【63】『つきよのばんのさよなら』
中川正文 文
太田大八 絵
福音館書店 1975/12
残念ながら、この絵本は現在出版されていません。
絶版となってしまっている様です。
Amazonさんでも取り扱いはない様で、LINKも貼り付ける事ができませんでした。
中川正文さん、太田大八さんという素晴らしいお2人が手掛けられている絵本だけに、絶版という状況は非常に残念です。
図書館などにはあるかと思いますので、是非一度読んでみていただきたい1冊です。
物語の構成も素晴らしく、また、太田大八さんの描く世界がとても美しく、そして切ない。
いかにも「泣かせよう」という子ども騙しは全くありません。
でも、心が震えます。
この様な物語こそ、子ども達に残していきたいのに...と思わずにいられません。
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今日は安定の地元の親友とお昼から遊び、夜は久々に息子を母に預けて飲みに行かせていただきます♡
と言っても、産後めっきりお酒が飲めなくなったので恐らくノンアルですが。笑
実家でなければなかなかこんな機会もないので、甘えさせていただきます♡
150925
ayumi◡̈⃝