『うちのこみませんでした?』

『うちのこみませんでした? 』
ナンシー・タフリ 作・絵
晴海耕平 訳
........................✍
小さな人にとって、絵本は小さな冒険の世界でもあります。
自分が絵本の住人になった気分でドキドキワクワクしたり。
現実世界ではなかなか難しいことも絵本の中だと思い切り楽しめたりもします。
そんな世界を堪能することによって、小さな身体にたくさんの想像力が生まれ、やがて様々な本の世界を楽しめるようにもなりますし、想像力とは生きていく上で欠かせない大切な力でもあると思っています。
そして小さな人が楽しむ小さな冒険になくてはならないもの。そのひとつが、「安心感」。
ハラハラドキドキしっぱなしで終わるのではなく、ちゃんと安心できる終着点がある。
勇気を出して踏み出した一歩を見守ってくれている、優しい目がある。
それがあるからこそ、思う存分絵本の中の冒険を楽しむことができるのだと思います。
この絵本にも、我が道を行き小さな冒険をするかもの子が出てきます。
ある朝の8羽のかもの兄弟。他の兄弟たちが引き止めるのも聞かずに、一羽のかもの子はちょうちょを追いかけて行ってしまいます。
帰ってきて、他の兄弟たちから事の顛末を聞いたお母さん。さぁ大変と、他の子どもたちを引き連れて、「うちのこ みませんでした?」と探しに行きます。
お母さんの制止も聞かずに好きな方に駆け出してしまう子どもは、珍しくないですよね。
きっと我が子に重ねて読むお母さんもいるだろうし、まるで自分の様だとワクワクしながら読む子もいるでしょう。
つまるところの「迷子」なわけですが、この絵本には迷子の不安だけではなく、「安心感」がしっかりと描かれています。
お母さん達が「うちのこみませんでした?」と探し回っているページのどこかに、飛び出して行ったかもの子が描かれているのです。
ある時はちょうちょを追いかけていたり、ある時はお花の中に潜り込んでみたりと、お母さんの心配をよそに好き勝手遊んでいます。
読んでいる子ども達は、「ここにいるよ!」とお母さんに教えてあげたくなると同時に、自由気ままに遊んでいるかもの子に自分を重ねてワクワクした気持ちにもなれると思います。
探してくれているお母さんがいるという安心感もあるでしょう。
最後は一緒に探してくれていたかめさんが、お母さんのところへ連れて行ってくれます。
「周りの人のあたたかさ」。そんなことも感じることができます。
ちょっと自由な冒険をした子ども。
それでも最後は、お母さんと他の兄弟達と一緒にくっついて、眠りにつきます。
終着点は、大好きなお母さん。
小さな人が楽しむ絵本にとってとても大切な、安心感です。
そしてこの絵本に描かれているのは、やんちゃなかもの子だけではありません。
探し回っているお母さんの隣にぴったりとくっついて離れないかもの子。
この子に感情移入する子どももきっといると思います。
わたしの息子もどちらかといえばこちらのタイプ。色んな子がいていいんだよ。そんな風に伝えてくれます。
こんなストーリーのある絵本ですが、実は文章はほとんどありません。
ほぼ、「うちのこ みませんでした?」だけです。
それでも絵だけでストーリーはしっかりと浮かび上がってきます。
これぞ良質な絵本。是非お子さんと、ちいさなかもの子の冒険を話しながら楽しんでもらいたいと思います。
........................✎
【298】『うちのこ みませんでした?』
ナンシー・タフリ 作・絵
晴海耕平 訳
童話館出版 2000/09
160515
ayumi◡̈⃝