『ももたろう』

松居直 文
赤羽末吉 画
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今日はこどもの日。
男の子が主役となる1日ですが、本来は男女関係なく子どもの健やかな成長を祝う日でもあります。
ですが、雛祭りと端午の節句という対の行事のイメージがありますよね。
我が家も息子なので、やはりこどもの日はちょっと特別な気がします。
強く逞しく優しい男の子に。
そう願うと、思い浮かぶのはこの絵本。
日本で強く、逞しく、優しい男の子と言えば、やはり彼は欠かせません。
そう、「ももたろう」です。
ストーリーは最早説明もいらないくらい有名ですね。
ももから生まれたももたろうが、鬼退治に行く昔話。
犬や猿やきじがきびだんごを分けてもらいお供になるシーンは、あまりに有名です。
有名だからこそ、ももたろうを題材とした絵本は数多くあります。
ももたろうだけでなく、昔話には本当に沢山の絵本があります。
ですが、そのどれもが良質なものでは決してありません。
むしろ、昔話というのは本来「口語伝承」で口から耳へ伝わったお話なので、決して絵本に向いているわけではないのです。
ですので、昔話の本質をしっかりと捉え、その世界観を崩すことなく、絵本としてしっかりと成り立っているものはむしろ少ないくらいだと思います。
「ももたろう」に関しても様々な絵本がありますが、個人的に「ももたろう」と言えば、まずはこの松居直さんと赤羽末吉さんの手がけられた『ももたろう』だと思います。
まず、有名な「ももから生まれたももたろう」のシーンですが、よくあるのは「おばあさんが包丁でももを切ると中から男の子が」というくだりです。
ですが、よく考えなくてもわかる様に、包丁で真っ二つに切ったら中にいる男の子だって真っ二つ。お話に矛盾が生じてしまいます。
子どもはこういう箇所にとても敏感です。
しかしこの『ももたろう』は、包丁で真っ二つではなく、「ふたりが ももを わろうとすると、ももが じゃくっと われて、なかから かわいい おとこのこが、ほおげあ ほおげあっと いって うまれました。」となっています。
熟れた桃の割れる音や、元気な男の子の泣き声。
絵を見なくとも想像できる、綻びのない文章は、正に昔話にぴったりです。
ももたろうの成長の過程も矛盾がありません。
ごはんを一杯食べると、その分だけ大きくなるももたろう。
絵にもその過程がしっかりと描かれているので、子ども達も段階をちゃんと踏みながらももたろうの成長を理解できます。
「あっという間に大きくなった」なんて雑な書き方をしていない、正に昔話の本筋を失っていない書き方であると言えます。
そして鬼ヶ島のシーン。
ここも「ももたろう」を語る上では欠かせない重要な見せ場ですが、よくある展開は、「鬼退治をしたももたろうは、宝を沢山手に入れて幸せになった」というものです。
しかし、そもそも鬼退治に向かったももたろうの目的は、宝を奪うことではありません。
暴れている鬼を退治し、さらわれた姫を助け出す為です。
ですので、この『ももたろう』では、降参した鬼たちが差し出す宝物は受け取らずに、姫だけを助けています。
本来の目的だけでなくそれ以上のものを得るわけではない。ももたろうは、自らの意思を最後まで真っ直ぐに貫いています。
ここに、「ももたろう」を通して子ども達に感じて欲しい大切な本質がある様に思います。
そして最後は、助けた姫をお嫁にしておじいさん、おばあさんと幸せに暮らします。
めでたしめでたしという、昔話に欠かせないハッピーエンドで終わります。
「ももたろう」の本質を失わずに、その世界観を崩すことなす仕上げられている絵本は、やはりこの『ももたろう』をおいて右に出るものはないと思います。
これだけ見ても、昔話を絵本にするのはそう簡単ではないことがわかると思います。
そして、良質な昔話絵本を見分けるのもまた難しいです。
昔話絵本こそ、本当に良質で、子どもに読むにふさわしいものを厳選して与えるべきだと思います。
そうでなければ、昔話を絵本にする意味があまりないとすら思います。
先人達の生きる知恵が詰まったお話。
そんな昔話の本質を見抜き、ふさわしい文章とふさわしい絵で絵本に仕上げているもの。
そんな絵本を、わたしもしっかりと見極めていきたいと思います。
「ももたろう」に関しては、自信を持ってこの『ももたろう』をおすすめします。
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【288】『ももたろう』
松居直 文
赤羽末吉 絵
福音館書店 1965/02
160505
ayumi◡̈⃝