さんじのえほん。

3時のおやつみたいに、絵本が日々のちょっとした幸せに⋆* 2児の子育てをしながら絵本や子育てにまつわるあれこれをお話しています。マイホームは絵本ハウス。絵本に囲まれた暮らしを親子で楽しんでいます◡̈京都在住。絵本講師✎

『ちいさいタネ』

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エリック=カール 作
ゆあさふみえ 訳

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ある秋の日。
花の種達は風にあおられ、空中に飛び散りました。
これから種達は、遠い遠いところまで旅をします。

そんな種の中に、ひときわ小さな種がいました。
この種も、みんなと一緒に旅に出ます。

途中、力尽きて落ちてしまう種もあります。
落ちた場所がとても寒いところだったり、暑いところだったりすると、その種はもう芽を出すことができません。

また、途中で生き物達の餌になってしまう種もありました。
小さな種は、あまりに小さく、生き物達に見つからずにすみました。

やっとのことで地面に降り、冬を越え、ようやく芽が出せても、花が咲くまでまだまだかかります。

小さな芽の時に子どもの足に踏まれてしまった仲間もいました。
大きな花を咲かせたと思ったら、人の手によってぽきりと折られた花もありました。

そんな中で、小さな種は小さな葉を出し、やがてとてもとても大きな花を咲かせることができました。

多くの仲間達は花を咲かせることができませんでした。
それでも小さな小さな種は、大きな大きな花を咲かせ、やがて季節が巡り秋が来た時には、その花に沢山の種を宿していました。

そしてその種達は、また風に乗って旅を始めるのです。


この絵本は、科学絵本でもあります。
種から花へ、そしてまた種へ。
順調に大きくなる種もあれば、途中で力尽きてしまう種もある。
ここに描かれる種は、自然のサイクルの中でそれぞれの役割を果たしています。

でも、絵本は読み手によって変わります。
読む時期によって変わります。
どんなことを思い抱いてもいいのです。

わたしは今日という日に、この絵本を選びました。

沢山の命が自然によって奪われた5年前。
決して東北の人達だけではありません。
わたし達もまた、あの日から5年間、生きて、生かされてきました。

小さな種は、仲間達の分も大きく大きくなり、立派な花を咲かせました。
そうしてまた、沢山の種を放ちました。

わたし達は、何ができるのでしょう。
沢山の犠牲の上に立ち、何が残せるのでしょう。

まだ復興は終わっていません。
新たな問題は山積みです。
まだまだ戦っている人たちがいます。

忘れないこと。
今に感謝すること。
大切なことです。でも、5年経ち、もうそれだけではダメな気もします。

わたし達は知らなさすぎました。
今でもまだ、知らなさすぎます。
知らなければいけない。
その姿勢を子ども達に見せなければいけない。
これから先の未来を生きていくのは、子ども達です。
何も知らずに大人になってはいけない。
これから先の未来に必要なのは、「知る力」「考える力」「選び取る力」だと思います。

ですが、今日だけは。
今日だけは、ただ無心に祈りたいと、そう思います。


3.11
ただ、手を合わせて。


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【232】『ちいさいタネ』
エリック=カール 作
ゆあさふみえ 訳
偕成社 1990/12

日々の暮らしの中、時が経てば思い出さなくなる日が増えていきます。

忘れない様に。そう思ってきましたが、忘れないのではなく、今を知らなければいけないと、5年目にしてようやく思う様になりました。

今日だけは無心に祈りを捧げて。

明日からはしっかりと、現実と向き合いたいと思います。


160311
ayumi